01.見上げた空
「あー、腹減った」
天気のいい昼下がり、1度は壊れてしまった見晴台で1人の男が仰向けになっていた。
その男の名前はリッド・ハーシェル。青春真っ只中、ただいま彼女募集中。
昼下がり、腹も膨れて場所が場所だけに風が心地よく、なかなか寝心地は悪くなさそうである。
「ぐかー」
って言うか、もう既にお休みだったらしい。早すぎて嫌になっちゃうね☆
「もう、リッド! またここで寝てるんだから。風邪引いちゃうよ?」
「くかー」
寝始めてすぐ、見晴台の梯子が揺れたかと思うと、1人の少女が呆れながら上がってきた所だった。
彼女の名前はファラ・エルステッド。リッドの幼馴染の世話焼きさんである。
「リッドってば、風邪引くよー。と言うか少し残ってるんだから手伝ってよ」
「くかー」
いつもは1人で畑仕事をこなすファラだったが、最近季節の変わり目で少し風邪を引き畑の手入れを怠ってしまい、
今日はいつもより仕事がたくさんあるのだ。
このままでは日が暮れてしまうと思ったファラは、急遽幼馴染で怠け者リッドに助けを求めに来たのだった。
「あー、もう!」
なかなか起きないリッドに、諦めたのかファラは眠って動かないリッドの横に腰を下ろした。
「もう、リッドに頼んだ私がバカでした。私も不貞寝しちゃうもんね」
そして、そのまま寝転がる。
「今日もいい天気……」
不貞寝の癖には楽しそうなファラ、リッドの横に横になって見晴台の屋根で少し見づらい空を見上げる。
そこにかつてあった大陸がない空を。
「キールとメルディ元気かな、風邪とか引いてないといいけど」
インフェリアより比較的涼しいセレスティアにいる親友達の体調を気にしながらも、ファラは横の幼馴染に意識を向けた。
「リッドって、寝るかご飯食べるしかしてないんじゃない? なんか気ままだよね」
「くかー」
気ままで片付けていいのだろうか、いや駄目だろう。
「もう畑仕事明日でいいや、今日は終わり!」
どうもリッドの怠け癖がうつった様だ、ファラは眼を閉じる。
心地よい風と天気にファラはすぅすぅと静かな寝息をたて、眠ってしまった。
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「今日もいい天気だな」
「はいな! 今日も変らず曇り模様〜」
どうやら最近は曇りが続いているらしい。
「……メルディ、それは言ったら駄目だろう。黙ってればパッと見分からないからな」
「そうか? メルディすぐ見れば分かると思うけどな」
「それはだな……ともかく禁句だ、いいか?」
「う〜ん、よく分かんないけど分かったよぅ」
キールはいつものように窓際で本を読み、メルディは部屋で本を抱えながら歩き回っていた。
どうやらキールが読んだら読みっぱなしの本をメルディが本棚に戻しているようだ。
量が量だけに大変そうである。
それを本で顔を隠しながら微笑ましげに見ているキール。
ふと、空を見上げた。かつて自分の故郷があった空を。
「キール読んだら読みっぱなし! 少しは読んだら元に戻すよ」
「誰が戻してくれと頼んだ? まだ調べ物が途中なんだ、戻さないで欲しいのが本音だな」
「キールが怠け者〜 ガリガリ〜 骨〜!」
部屋にはパタパタと走り回るメルディの足跡が響き、キールの頭の上でクィッキーがメルディの様子をうかがっているようだ。
キールが空を見上げるとクィッキーは足場が傾いたのでスチャッと地面に着地、
キールを1回見上げるとメルディの元に走っていった。
「クィッキーもそう思うよな〜?」
「クィッキー!」
「……」
そんなメルディを尻目に空を見上げ続けるキール。
流石のメルディもキールの様子がおかしい事に疑問を覚えた。
「キールどうかしたのか? 空なんか変なのか?」
パタパタとキールの側にやってきたメルディは自分も空を見上げた。
かつて1人で旅に出た大陸のあった空を。
「いや、なんでもない。さて、今日の食事当番は僕だったな」
「バイバ! そういえばそうだったよ」
本を閉じ、台所のある奥に進みながらキールは思う。
かつての幼馴染たちは元気だろうか? と。
キールに続きメルディも奥に進みながら思う。
かつての戦友は仲良くやっているだろうか? と。
思うことはどうやら同じようである。
▼
「あー、すっかり暗くなっちまったな」
見晴台の上、リッドは背伸びをした。昼寝のつもりが寝過ごしてしまったのだろう。
横の幼馴染に驚き呆れつつ、リッドは空を見上げた。一面の星空を。
かつて信じられない程の冒険をした日々、2つの世界を飛び回り、2つの世界を救ったきっかけになった空を。
「今日も変らず星は輝く…ってか?」
「……くしゅん」
夜の急な冷え込みに耐えかねたのかリッドが起きたのを察したファラが身体を起こしながら、くしゃみをした。
くしゃみで反射的にファラを見たリッドは微笑んだ。
「また風邪引くぞ」
「誰のせ…へっしゅん!」
昼とは逆になってしまったようだ。
もそもそと身を小さくして冷え切ってしまった手を擦り少しでも体温を上げようとしているファラ。
「あぅー、寒……」
暫くファラを見ていたリッドだったがぐぅーとお腹がなる。
腹の虫が餌を要求していると感じ取ったリッドはどうしたもんかとまた悩み出しつつファラの隣に腰を下ろした。
「腹減ったなぁ……」
「そんなんだからリッド=お腹になるんだよ?」
リッドの顔を覗きこんだファラが無邪気に笑い、それを聞いたリッドが うるせー と呟いた。
「じゃ、すっかり遅くなっちゃったし帰ろっか! リッドは晩御飯何食べたい?」
「そりゃー、やっぱりオムレツだろ」
スッと立ち上がるファラに続き、その後を追うようにしてリッドも立ち上がる。
ファラが先に梯子を下り、少し遅れてリッドも無事に地上に到着。
何が楽しいのか、他愛もない会話で笑いながら村までの道を歩く2人だった。
世界が違っても、心のどこかには『想う』気持ちがある。
同じかは分からない時間が過ぎ、幸せと思える時間を過している。
こんなに幸せなことって言うのは滅多にない、素敵なことだと思うのはきっと間違ってないだろう。
―後書き―
お題2項目めの、『見上げた空』でした。
空と言えばやっぱりTOE! 今回はリッドとファラがメインですね。
相変わらず思い付いて書き始めた時と書き上がる時まで間が……
とにかくUP出来てよかったです、ここまで読んでいただいてありがとうございました。
誤字脱字等、何かございましたらお気軽にどうぞ。
UP時期:2007/2/21