03.視線の向く先



気がついたら目で追っていた。

ちょこまかと動く君の姿。

なんだか足取りが危なっかしくて、とても安心して見ていられない。

でも何だかそれが可愛くて、何も言わずに眺めてしまう。

旅の途中、道端に咲いている花を見て笑う君。

明るい世界に、生まれたばかりの赤ん坊みたいな目を向けて喜ぶ君。

何がそんなに楽しいのか、見てる方はさっぱり分からない。

でもそんな君が愛しくてたまらない。

心の底から願うよ。

どうか、その気持ちをずっと失わないで。

その無邪気な笑顔を。

君がずっと笑っていられるように、僕は出来ることをやろうと思う。

ずっと、君の側に居よう。

ずっと、君の側に……。




* * * * * * * * * *


「キール! 何見てるか?」

「うわぁ! お、脅かすなメルディ」

 なんだか上の空だったキールを見たメルディがどうしたんだという風に覗き込む。
 我に返ったキールはメルディの顔にビックリして慌ててしまう。

「キール大丈夫か? なんだか下の空ー」

「それを言うなら上だ、ちなみに読み方は うわ 」

 掌を胸当て深呼吸。
 少しずつだが落ち着いてきたようだ。

「大丈夫だ、問題ない。メルディこそどうしたんだ?」

「はいな! お昼ごはんにお弁当作ってきたよぅ。一緒に食べよ!」

 そう言うとメルディは手に持ってきていたバスケットを高々と上げる。
 そういえばもうそんな時間か、集中していて分からなかった。
 手にしていた本を静かに閉じ、メルディが持ってきたバスケットの中を覗き込む。
 中にはいろんな種類のベーグルサンドが並んでいた。

「隣のおばさんに教えてもらったレシピに一工夫してみたよぅ!」

 テキパキとそれをお皿に取り分けていくメルディ。
 一工夫という言葉にキールは思わず苦笑してしまう。

「これがキールの分な! こっちはクィッキーの分!」

「クィッキー!」

 嬉しそうに跳ねるクィッキー。

「そしてこれが、メルディの分〜♪」

「…………」

 メルディの分! と取られた皿を見てキールは呆れてしまう。
 メルディの皿に乗ったベーグルの具に愕然となる。

「メルディ、それは流石に詰め込みすぎだろう」

 辛そうな赤が多いベーグル、それを食べてメルディの口は大丈夫なのかだろうか?

「そうかな〜? そんなことはないよぅ」

 頂きま〜す! と元気良く言った後、口を大きく開けてメルディがベーグルに齧り付いた。
 そしてもぐもぐと口を動かし始める。

「ん〜、美味しいな」

 たかがベーグル、されどベーグル。
 もぐもぐとしているメルディは実に幸せそうだ。
 その様子を見たキールもベーグルに手が伸びる。そして1口。

「……あ、あま」

 生クリームと苺というシンプルかつゴールデンコンビのベーグルは破壊的に甘かった。
 一体生クリームにどれだけ砂糖を入れたのだろうか?

「その生クリームは特別よ! 滅多に入らない品らしいな。キールが為にメルディ奮発しました!」

 口の周りにパンの欠片をつけて自慢げに話すメルディ。
 良い生クリームもこんな甘ければ良し悪しが全く分からない。

「……一体どれだけ砂糖を入れたんだ」

 早くも皿にベーグルをそっと戻して側にあったコップにオレンジジュースを注いだ。

「キールもういいのか? もしかして美味しくないか?」

 それを見たメルディが不安げに覗いてくる。

「少し砂糖の入れすぎだな、甘すぎる」

 コップを手にとって口直しといわんばかりにジュースを飲み干すキール。
 それを見たメルディはさっきの元気はどこへやら、シュンとなってしまった。

「キール甘いのが好き、だからメルディ少し多めに砂糖入れたよ。ごめんな」

 メルディは食べかけのベーグルを自分の皿に置き、キールの皿に手を伸ばした。
 その手を避ける様にキールは自分の皿を手に取る。

「誰も食べないとは言ってないだろう、こんなの少し甘いだけだ」

 そういってキールもさっきのメルディに負けじと大きな口をかけてベーグルに齧り付く。
 う、あま……。

「キール大丈夫か? 無理しないでいいからな」

 大口開けて食べるキール。
 それを見たメルディは少し驚きつつも申し訳なさそうにキールを見つめる。

「ご、ご馳走様……!」

 少し苦しそうにしながらも完食したキールが側にあったナプキンで口を拭く。
 甘い、これは流石に予想していた範疇を遥かに超える甘さだ。

「キール大丈夫か? ジュース飲むか?」

 そう言うとメルディはさっきキールが飲んでいたコップにオレンジジュースを再び注いでいく。

「はい、どーぞ」

「……」

 キールはそれを無言で受け取りジュースを飲み干し、はぁーと一息。

「キール!」

 メルディが抱きつく。

「うわぁぁあ!」

 いきなりの事にキールは手に持っていたコップを取り落とした。

「メ、メルディ! いきなりなんだ、離れてくれ!」

 心の準備も出来ていない状態での抱きつきは精神的にダメージが大きかった。
 しかし、準備をしていてもダメージは変らないという罠。
 とにかく抱きつかれたキールは堪ったもんじゃない。シドロモドロの中で錯乱状態。
 そんなキールの状態を知ってか知らぬかメルディは腕にぎゅっと力を込める。
 小さい子がぬいぐるみを抱くような、そんな感じで。

「キール、ありがとな」

「べ、別にどうということはないさ」

 完食してもらったのがそんなに嬉しかったのか?
 顔を真っ赤にしながらぶっきら棒に答えるキール、その言葉がメルディには何だか嬉しかった。

「今度は苺ジャムで作ってみるよ!」

「砂糖は控えめで頼む」

 生の苺から苺ジャムにパワーアップ、甘さは控えめだとありがたい。




* * * * * * * * * *


本当に、君はいつも笑っている。

何がそんなに楽しいのだろう。

何がそんなに嬉しいのだろう。

僕にはさっぱり分からない。

でもそれでも君は嬉しそうに笑う。

そんな君を見ていると、こっちも嬉しい気持ちになる。

心が温かくなる。

僕の大切な愛しい人、どうかこれからもそのままで。

君は僕の隣で笑う。

僕は君の隣でそれを見て笑う。

だからどうか、ずっと僕の側に……





−後書き−
キルメルです。10題も大分埋まってきましたね。
そして奇跡が起きました。
制作日2日で完成したわけですが色々途中でほったらかしにしてるモノが多いので、
また色々と話を進めて行きたいと思ってます。
また忙しくなってきたので合間合間を縫って……!
マイペースで頑張ります。
では、ここまで読んでいただいてありがとうございました。



UP時期:2007/03/31