キールの日常

 昼下がり、キールはいつものように窓辺で本を読んでいた。
 グランドフォールの危機が去り、世界は2つに別れはしたが、
 キールの日常はあまり変わらないようである。

「…………………」

 時折、『そうか、成る程……』とか『ふんふん』とか呟きながら1人読書に没頭するキール。
 その時、窓際を伺いながら何故か匍匐前進でメルディがやってきた。
 キールは相変わらず読書に没頭中だ。

「クィッキー?」

「しーーー」

 メルディの肩に乗っていたクィッキーは、一体何をしているのか不思議そうに鳴く。
 それを静かに制しながらメルディは匍匐前進で前進する。

「……お前は何をしているんだ」

「Σバイバ!!」

 あと1メートルと言う距離まで来た所で本から目を逸らさずキールが呆れながら訪ねる。
 メルディは不意をつかれて飛び上がった。

「さっきからズリズリズリズリ……気になって読書に集中出来ないだろう」

 どうやらキールはメルディの服と匍匐前進する床の擦れあう音で気がついていたらしい。
 ぱたんと本を閉じ、キールは続ける。

「……ここは暫く掃除をしてないぞ。
 匍匐前進なんかして身体で床を掃除してどうする」

「シツレイだな〜、ここもメルディが毎日掃除してるよー」

 キールの言葉にメルディが憤慨する。
 メルディの肩に乗っていたクィッキーがキールの頭に移動する。

「今日はまだしてないだろう、クィッキー頭は止めてくれ」

「クィッキー♪」

 学者としては、やはり頭は大事なのだろう。
 しかし、何をどう解釈したのかクィッキーはキールの頭の上を元気良くジャンプし始める。

「……で、僕に何か用事があったんだろう?」

 クィッキーの説得を早くも断念したキールは、話題を変えた。

「メルディはお暇よ」

 突拍子のない言葉にキールは溜息をしながら本に手を伸ばす。

「またにしてくれ」

 さっき閉じたページをぱらぱらと探しながら窓際に再び座り、読書を再開する。
 この『お暇』攻撃にも大分慣れたようだ。

「キールは読書で大忙しか?」

「あぁ」

 キールが再び本を読み出したのを見たメルディは頬を膨らませはしたが気にせずに喋り出した。

「キールがケチ〜 今日の晩ご飯は魚で良いか?」

「ケ…… 昨日も魚だっただろう」

 ケチという言葉に少しショックを受けつつも、キールは本を読み続ける。
 突然の話題変えにも慣れっこになった。

「昨日は昨日で今日は今日よぅ、さっきお隣のおばさんがイキのよい奴をオスソワケしてくれたよ。
 今日の魚もきっと美味しいな♪」

 凄く大きいよ〜と言いながら大きさをジェスチャーするメルディ。

「さっきのチャイムはお隣か」

 キールはさっき鳴ったチャイムの音の事を思い出した。

「あ、そう言えばボンズに彼女が出来たらしいな〜」

「あのボンズにか? 信じられないな」

 口ではこう言っているがキールの顔は穏やかだ。

「それが凄くかわいい子でな〜 メルディびっくりしたよ! な〜クィッキー」

「クィクィッキー!!」

 まだ頭の上でジャンプを続けるクィッキーも元気よく返事をする。
 キールの髪の毛はもうボサボサだ。

「でなでな〜♪」

「…………」

 メルディが楽しそうに話しているのを横目で見たキールは溜息をしながら立ち上がった。
 それを見たメルディは不思議そうにキールを見た。

「キールどうしたよ? やっぱりメルディが五月蠅いから怒ったのか?」

「いや、暇なんだろう? 僕も少し休憩しようと……」

 それを聞いたメルディの表情がパッと明るくなると、ぴょんぴょんとジャンプし始めた。

「わい〜る♪ キール休憩か!」

「あぁ、区切りでちょうどいいし、って跳ぶなメルディ」

「メルディは跳ぶほど嬉しいよぅ! じゃ、メルディお茶セット持ってくるな〜」

 パタパタと台所に向かって行くメルディの後ろ姿を見ながら、
 キールは頭に居座っている小さな家族を抱き上げ、下ろした。

「寝、寝てる……」

 キールの手の中に納まったクィッキーは寝息を立ててスヤスヤと眠っていた。
 さっきまでジャンプしていたのが嘘のようだ。

 暫くの間、キールの頭が気に入ったクィッキーは読書しているとやってきては、
 キールの頭で昼寝をしてキールを困らせたとか……


 暫くは頭の重い日常がやってきそうだ。




−後書き−
今回は王道キルメルです。
毎回毎回最後まで読んで頂き、ありがとうございます。

今回はほのぼの〜とした平和をイメージ。
キルメルは結構好きな津名ですが。
皆様に気に入っていただければ嬉しい限りです。


UP時期:2005/10/10