悲壮歌

▼1500HIT記念 ジグルさんリクエスト作品



悲しい戦いを乗り越え、ミクトランを倒し、神の眼と外殻を破壊して世界を平和に導いたスタン達。
旅の仲間は解散し、皆自分の義務を果たすべく居るべき場所に戻っていった。
ルーティは本格的に孤児院の再建を開始すべく活動を開始し、
スタンは戦い後暫くリーネで暮らしていたものの、ルーティの支えになる為にリーネに別れを告げた。
問題は多々あるが、クレスタにて形だけの『デュナミス孤児院』を再建後、とある教会で盛大に行われた結婚式。
今回のお話はそんな新婚さんのお話……。



* * * * * * * *


「お祝い沢山貰えたわね〜」

 デュナミス孤児院、リビングにて。
 ひいふうみい……とニマニマしながらガルド(結婚祝い)を数える色んな意味で幸せ一杯なルーティ・カトレット。

「ルーティ、がめついからもう少し控えめに数えろよ。ってか数えすぎだと思う」

 そんなお嫁さんの姿を見て苦笑いのスタン・エルロン。
 結婚式が盛大に行われて、早1ヶ月が過ぎようとしていた。
「うっさいわね、こんな大金見るの久しぶりなんだから見れる時に見て、
 和める時に和んで、触れ合える時に触れ合っとかないと次いつ拝めるかわからないのよ?
 本当は使いたくないけど仕方が無いの、だって我が家にはまだ収入がないんだもの」

 はぁ……と大袈裟に溜息をしながらガルドに擦り寄るルーティ。
 結婚して早1ヶ月だが、スタンはまだ定職についていなかった(爆)。

「うっ…しょ、しょうがないだろ、受けても受けても落とされるんだ」

 痛いところを付かれたスタンは一瞬たじろぐがすぐさま反撃に出る。

「しっくりと言うか、あんたの場合原因は低血圧! 朝起きても面接でボーッとしてるから落とされんのよ」

 ルーティの厳しい言葉の猛攻に反撃するもあっさり返り討ちにあう始末。早速尻にしかれている……。

「あぁ……、羊追いなら任せろなんだけどな」

 スタンはリーネ村では1番の羊追いだったのを思い出しながら愚痴をこぼし始める。

「羊飼ってる田舎みたいな家はクレスタにあるわけないでしょ」

「田舎は余計だろ」

 田舎もん=スタンという方式が成り立っている今でもスタンは田舎という言葉に敏感だった。

「リーネみたいな田舎を田舎といわずになんて言うのよ!」

「田舎田舎言われるとさ、こう……」

 長い旅を経てスタンはリーネ村を田舎と認めざるおえなかった。
 が、流石に連呼されると何だか田舎と分かってるんだけど馬鹿にされてるような複雑な気持ちになるのだ。

「でもな、俺はリーネに生まれたことを誇りに思っている」

 グッと拳を握り締め、キラキラと輝く眼を眼の前にある窓に向け、青空に語りかけるスタン。

「あー、はいは……」

 一生やってろ、と言わんばかりり再びガルドに擦り寄るルーティさん。
 そんなルーティがガルドに擦り寄っていた顔を急に上げ、しきりに周囲を気にしだし始めた。
 ただ事ではない様子にスタンが無意識に声を小さくして緊張した面持ちで尋ねる。

「……ど、どうしたんだ? 奇襲か?」

 奇襲、スタン夫婦は最近街に出ても家に居ても視線を感じる日が続いていた。
 スタンがそっと剣に手をかける。
 先の戦いで相棒のディムロスは居なくなってしまったものの、スタンの腕はまだ衰えを知らない。
 ルーティも相変わらずキョロキョロと回りを気にしている。


   緊迫した空気。


 暫くキョロキョロと気にしていたルーティが、どうやらタンスに目をつけるとスタスタと近づいていく。
 タンスに近づくルーティを見たスタンは眼が飛び出るほど驚き、思わず叫んだ。

「狽ー、待て待て待て!! ルーティそこはたんま!!」

「みーつけた!!」

 ガッとタンスの上から3番目の引き出しを勢いよく引き出し、引き出しの底にある封筒を鷲掴んだ。
 ルーティが鷲掴んでいる物はスタンのヘソクリだった。

「あー、それだけは駄目だ、リリスが俺の為になけなしの小遣いを……!!」

「そんな下手な手には乗らないわよ、ちまちまちまちま一体何してんのかと思ってたら、
 こんな所にヘソクリを隠し持ってるなんて! ルーティ様を甘く見るんじゃないわよっ!!

 高々と鷲掴んだ封筒を掲げ、スタンが取り返そうとするのを阻止している。
 が、身長157cmと172cmだ、結果は目に見えている。
 スタンは、ルーティが掲げていた封筒を難なく取り返すと逆にルーティに取り上げられないように封筒を高々と上げなおした。
 やると楽しいが、やられると屈辱的だ。ルーティがスタンの手から再び封筒を取り返そうと飛んだり跳ねたりで奮闘する。

「家でサーチガルドは反則だ! 亭主をもっと信用しろ!」

「ヘソクリなんてしてる分際で意見してんじゃないわよ!!
 とにかくその618ガルドは没収、それで2階の雨漏りを直すのよ」

「理不尽だ、理不尽すぎるぞ!! お願いだからこのお金だけは……」

 何だか取立て屋が無理矢理顧客からお金を徴収してるような光景に見えてならない。
 にしても、まだ封筒を開けてすらいないのに、いくら入ってるのかバッチリ分かっちゃってるルーティさん。
 ルーティのお金への執着は凄い。と改めて実感したスタンだった。

「あぁ、くどい!!!」

「ぐはっ」

 なんとか身長差で守っていた封筒だが、痺れを切らしたルーティがこの状況を脱する為に先手に出た。
 スタンの鳩尾に強力な膝蹴りの1撃を見舞いする。
 あまりの衝撃に呻きながら、片膝を付き倒れこむスタン。
 その隙にスタンが手に持っていた封筒を分捕った。

「ひ、卑怯者……」

 いきなりの攻撃にすっかり油断していたスタンの腹(鳩尾)はひとたまりもない。

「いい、よく聞きなさい。家庭内の優先順位は、@優しさ A威厳 B力!! 強いのが上、これぞ自然の理!!」

「家庭から、自然に、なってるぞぉ……」

 確かに、さっきまで『家庭内』だったのが最後には『自然』に変わっている。
 ルーティさんってば欲張りなんだから♪(そういう問題でもない)

「まぁ、とにかく! このまま没収ってのも可愛そうだから
 この『優しい』ルーティ様がこのお金をどう使うつもりだったのかだけでも聞いてあげるわよ。さぁ、言ってみなさい」

 凄く大事に守ろうとしているスタンを見たルーティが
 『文句があるってんなら聞いてあげるから言ってみな、ささっと言えよ』と無言の圧力をかけてくる。
 そう聞かれたスタンは『え〜っとですね……』と腹(鳩尾)をさすりながら、言葉に詰まりはじめた。

「言葉につまらない、ハッキリするハッキリ!!」

 何気にルーティってリオンとそっくりだよね、流石姉弟……作者の勝手な解釈。
 そんな感じで困るスタンだが、突如2階に上がる階段の方からバタバタという音が近づいてきた。
 ん? と思わず階段の方を見る2人。

「洗濯物終わりました、子供達もお勉強を終えてもうすぐ降りてきます。
 もうお兄ちゃんまた負けてる!! 本当に弱いんだから……」

「洗濯物ご苦労様、本当に助かるわ」

 ギシギシとうるさい階段から大きな籠を持ってスタンの妹リリスが降りてくる。
 表情は心底呆れているご様子。
 2人は新婚さん以前に冒険者で英雄だ、家事なんて出来るのかと心配でリーネからたまに家事の手伝いに来てくれているのだ。
 まぁ、簡単に言えばリリスの気遣いだろう。御節介とも言うが……
 そんなリリスを見たルーティが感謝の言葉を言った。

「そうは言うがなリリス、お兄ちゃんも頑張ってるんだがどうもなー」

「情けない、それでもこの国の英雄?」

「家庭に英雄もへったくれもないぞ」

「あ、そうそうリリスちゃん、これに見覚えない?」

 そんな兄妹に『よっこいしょっと』言いながらスタンの前に割って入るルーティ。
 大分話がズレたがスタンから分捕った封筒をリリスに見せた。

「封筒ですか?」

「そう封筒、心当たりない?」

「えぇーっと……」

 封筒に目をやってルーティを見て、封筒ルーティと見るリリス。
 ルーティの後ろでスタンが『すまん、口裏合わせてくれ、頼む!!』と両手を合わせているのも目に入った。
 なんとも情けない兄の様子に再び呆れるリリスだが、しょうがないという感じで『心当たりありますよ』と控えめに答えた。

「心当たりある? じゃあ、この使い道もわかっちゃったりする?」

 リリスの反応に好奇心旺盛なルーティは旦那のヘソクリが何のために貯められているのか興味津々なご様子。
 そんな興味津々な視線を向けられたリリスだが、流石に返答に困ったようで、兄のスタンに視線を向ける。
 『頼む!』と兄は必死にジェスチャーで語っていた。

「さぁ、そこまでは……」

「ふぅ〜ん……」

「な、なんだよ」

 リリスが言い終わると同時にルーティがゆっくりと後ろにいるスタンを見る。
 ゆっくりと後ろを向かれたせいか怖さがいつもの比じゃないので心の中で悲鳴をあげるスタン。

「あんた、これは妹にもらったってさっき言ったわよね? どういうことなのかしら?」

「あ、あぁ言ったさ。これはリリスが俺の為になけなしの小遣いをだな」

「もうその台詞は聞き飽きたわ、言い訳は気絶した後に聞きましょうか」

「いや、待てルーティ。気絶したら言い訳も何も言えないだろ?」

 ぐっと手の届く所にあるお玉をポンポンと手のひらで叩きながら『吐かなければシバく』と準備万端な様子。

「あぁ、もうお兄ちゃんも言っちゃえばいいじゃない!」

「いや、だってな……」

「何、知ってるの? 私だけのけ者? スタンの癖に生意気な」

「ぐふっ」

 カーンという音とともにスタンの頭にお玉がヒット。
 お玉をなめたらいけません。

「あぁ、お兄ちゃんってばこんなところで気絶しないでよ、邪魔なんだから」

 そう言うと、リリスはリビングに倒れこむスタンの足を掴むと、玄関の隅まで軽々と引きずっていく。
 引きずられるスタンがたまに椅子の角とかに頭をぶつけて低く呻くがそんな小さなことは気にしない。

「ルーティさんも兄を殺さないでくださいね、今死んだら2での私の出番がなくなりますので」

「そんなの知らないわよ」

 悪を成敗したような涼しげな顔で仁王立ちしているルーティを見ながらリリスはまた呆れる。
 どうして兄はこんなガサツな女性を選んだのだろう。村長の娘の方がよっぽど上品で女性らしいのに……
 実の兄を玄関まで運び、手についたほこりを払いながら一段落したリリスだが、
 2階の方からどたばたと言う複数の足跡が近づいてくるのに気がつくと階段の方に振り返った。

「おなかへった〜」

「ごはん〜」

「つかれた〜」

「来たわね〜、ちゃんと午前中の勉強は終わった? はい、ご飯の前に手を洗う!!」

 2階から降りてきた子供達の波を手洗い場に誘導させながら、
 ルーティは玄関の端で無数にたんこぶを作って伸びているスタンの前に立った。
 お玉の1撃でここまで伸びるのも凄いと思う。
 まぁ、追い討ちをかけたのはお玉ではないのだけれど……

「お兄ちゃんのへそくりですけど……」

 リリスが伸びている兄を見下ろしながら呟いた。
 その言葉にルーティの視線がリリスに向けられる。

「あれは、リオンさんのお葬式費用です。お兄ちゃんが言ってました」

『リオンはな、今では裏切り者と扱われて、葬式もろくにされてない。そんなの淋しすぎるだろう?』

「そう言って笑ってました……ううん、泣いていたのかも」

 途中までリリスに向けられていた目をスタンに戻し、それら言葉にルーティは優しく目を細める。

「まぁ、泣いた笑ったは置いといて。リオンってのは不器用な奴だったってお兄ちゃんは私に話してくれました」

 スタンは顔では笑って、心で泣いて、リオンを手にかけたことを『世界を守るため』という布で隠しながら、
 理解できたと心で分かって、でもどうしてと頭で悩んでいたのかもしれない。
 そういう風にリリスは思ったのかもしれない……とルーティは思った。

「リオンは幸せ者ね、本当にひねくれ者だったけど」

 伸びていると思われるスタンを優しい眼差しで見下ろしながらクスクスと笑う。
 ほんわかとして、でもどこか寂しい空気が漂う中、
 さっきから伸びているスタンを子供を見るみたいに優しい眼差しで見る2人。
 その時、ルーティがスタンの異変に気がついた。

「って、寝てるわコイツ……」

 どうやら気絶ではなくいつの間にか寝てしまったらしい。
 スタンの鼻には鼻ちょうちんが大きくなったり小さくなったりしていた。

「本当ですね。お兄ちゃんどこでも寝れるから」

 そういう問題でもないと思うのだが……
 リリスが『お兄ちゃんってばしょうがないんだから』とほのぼのと笑う。親馬鹿ならぬ兄馬鹿なリリス。
 そんなリリスとスタンを交互に見ながらルーティは思わず『ぷっ』っと噴出した。

「な、なんですか急に」

「い〜や、面白いな〜と思って♪」

(私もリオンともう少しマシな出会いをしていればこんな風に、お互いに笑いあったりできたかな……)

 手洗い場から子供達が帰ってくる気配というか喋り声が聞こえてくる。
 それに気づいたリリスが台所で煮えている鍋に慌しく走る。
 鍋の中身はマーボーカレーだ。
 いい具合に出来上がってマーボーカレーのいい香りが部屋の中に漂い始める。

「う〜ん、いい香りじゃない♪」

「今日も絶好調、いい感じに出来てますよ」

 小皿に分けて少し味見をして味を確かめるリリス。どうやら自信作のようだ。

「ルーティさん、お皿出してくれますか?」

「そうね、これから嵐が来るわよ〜?」

 子供達がキャッキャいいながら戻ってきた。
 それを確認しながらリリスは鍋、ルーティは皿の用意をテキパキと始めた。

「おなかすいたー」

「ちゃんとて、あらってきたー」

「はやくはやくー」

「きょうのごはんなにー?」

 子供達が期待の眼差しで見るなか自信たっぷりでルーティが笑う。

「今日はね〜、リリスお姉さん特製のマーボーカレーよ!
 こんなご馳走久々なんだから、みんなしっかりお腹に入れなさい!!」

「はーい!!」

 自分が居て、子供達が居て、孤児院があって、愛しい人がいて……
 戦いの無い、平和な世界になるようにと、願わずにはいられない。
 平和が1番、家族みんないつまでも、健康に楽しく暮らしたい。
 ルーティママがちゃんとした孤児院の再建を果たすのは、もう少し後になりそうだ。






〜おまけ〜

 食後にて。

「スタン、いつまで寝てるのよあんた」

「ZZzz……」

 どんだけ呼んでも揺らしても、起きる気配の無いスタン。
 困り果てていたルーティの前にリリスがなにやら道具を手に割ってはいった。
「あぁ、駄目ですそんな生ぬるい! これ持ってください」

「え?」

 そして、手に持っていた道具、中華鍋とお玉のセット1式をルーティに渡しながら
 自分用に持ってきた鍋とお玉を構えた。
 渡されたルーティは唖然と鍋とお玉を見つめる。

「いいですか? お兄ちゃんの妻たる者、これが出来ないと始まりません」

「は……?」

 そういうと何故か思いっきり息を吸い込む。
 そして……

「秘技 死者の目覚め!!!!!」

 次の瞬間リリスは持っていたお玉で鍋を思いっきり叩く、叩きまくる。
 耳の鼓膜が破れる、と言うくらいの大音響が孤児院のこだまする。

「ちょ、なっ!!」

 いきなりの事態にさっぱり意味の分からないルーティ。

 耳をふさぐので精一杯だ。

「う…ふぁ?」

「はい、おはようお兄ちゃん」

「…………」


 この日ルーティは『秘技 死者の目覚め』を習得した(爆)。



〜あとがき〜
Dシリーズ初挑戦、目標は『よし、リオンを出そう』でした津名でございます。
久々小説更新です、いつものことですが……(爆)
今回はキリ番1500HITリクエストのスタンとスーティの新婚話というリクエストを頂いたので書かせていただきました。
ちょっとでも笑ってくれれば嬉しい限りです。

やっぱりDは難しいですね、書けそうでかけないです。
リリスが出てきましたが、リリスの性格が掴めずてんやわんや……(爆)
Dもいまさら2周目プレイ中なのでネタがあったらドンドン書いていきたいシリーズです(^^)
ってか、2周目とかいいつつやるのか不安だ……(爆)

始めのリリス登場の場面、『リオンを出そう』にちなんで予定では、リオンが出てきてたんですよ。
いや、幽霊とかではなくですね、生きてる設定で。
でも流石にそれは自分のアレやらアレが駄目だったのでリリスに急遽登場して頂きました。

ってか色々サーチしたんですが、リオンのお葬式してませんよね?
してたらどうしようと思いつつ書いてたんですが、記憶ではしてないので葬式位してあげたい!!
まぁ、18年後永遠の16歳で登場しちゃうんですが……(笑)

ちなみにスタン達が感じていた視線は観光とか見物できてた人達の視線って言うしょうもない落ち付(爆)。
だって、カイルの時に観光客居たからきっと凄いと思ったんですよ。

なんだかいつもより話が重くなったかな、シリアスって難しい!!
日々精進、頑張ります。

ってな感じで長々ここまで読んでくださった心の広い方々に感謝です。
そしてジグル様、リクエストありがとうございました。
大変遅くなり申し訳ありませんでした(>_<)

当初の題名:『―の中身はなんじゃらほい』


UP時期:2006/3/22