キュリアさん家の裏事情

 港町ミナール、この街には凄腕の女医さんが住んでいる。
 彼女の名前はキュリア、国も認める凄腕女医さんだ。
 南に患者が居れば南に患者を見に訪れ、北に患者が居ると聞けば北に患者を見に訪れる。
 今日も彼女はヒトの命を守るために奮闘してい……

「ミーシャお酒、お酒持ってきて!!」

 なかった。
 いきなり酒とは何事だ! まだ、太陽は高いぞ!!
 いや、しかし待て待て。
 酒と言っても種類は沢山あるわけで、消毒用のアルコールを示してるのかもしれない。
 いや、きっとそうに違いない。
 あの叫び声もどことなく切羽詰ってる感じがした、きっと急患でも運ばれてきたのだろう。
 ところがどっこい、この考えはミーシャの姿で木っ端微塵に砕かれることとなった。

「キュリア先生、まだお昼です。こんな早い時間にお酒なんか飲んでもいいのでしょうか?」

 口ではそう言いつつも、ミーシャはお盆に熱燗と軽いおつまみを載せて、危ない足取りでやってきた。
 熱燗は前から準備してたのか、ほんわかと白い湯気が立ち上っている。
 キュリアはベットに座りながら、手頃なテーブルを近くに置き、飲む準備をしながらきっぱりと言い切った。

「全然問題ナシ、つべこべ言わずに持ってくる」

「……はい、すぐに」

 問題ナシと言い切ったキュリアだが、明らかに問題である。
 医者が、昼真っから飲酒。
 急患がきたらどうなるのか、考えただけでも寒気がする。

「でもキュリア先生、急患が来たら大変ですよ? 今日こそは1本にしされたほうが……」

 ミーシャはそう言いつつもキュリアの前のテーブルに熱燗とおつまみを置いた。

「急患なんて来ないわ、昨日も来なかったでしょう?」

 キュリアは置かれた熱燗を確認すると、盃にとくとくとお酒を注いで一気に飲んだ。
 ん? にしてもこの2人の会話、なにか引っ掛かりを感じずには居られない単語が……
 今日こそ? 昨日?
 にしてもキュリア先生、いい飲みっぷりだ。←軽く現実逃避

「ぷは〜 今日もお酒が美味しいわね、もう一杯♪」

「いや、あの……キュリア先生?」

 僕の話聞いてますか? なんて事を言いたそうなミーシャを無視してキュリアはどんどんお酒を飲んでいく。

「大丈夫よ、私は飲んでも酔わない体質で学生の頃は“底なしの美人女医見習い“と言われていたのよ」

 初耳です、キュリア先生!! ってか学生って…… 未成年ですか、先生。

「それは何度も聞かされて知っていますが、先生ともあろう人が
 昼間からお酒を飲んでいるなんて国にばれたらどうするつもりなんですか」

 そう、仮にもキュリアは王国発布特殊医師免状という、ありがたーい免状を持っている。
 その当人が昼間からお酒なんか飲んでいるのがばれたら結果は目に見えているだろう。
 まぁともかく、言ってやれミーシャ。 もうガツンガツンと!!

「それにしても、こう患者が来ないと暇すぎて腕が鈍ってしまうわ。」

 ミーシャの話を軽くスルーし、はぁ……。と溜息を漏らしたキュリアは暫く考え込む。
 タイミングを逃したミーシャは口を半開きにさせながらキュリアを見、心配そうに呟いた。

「あ、あの〜? キュリア先生?」

「そうだわ!!」

 ミーシャがキュリアの頭を心配する中、キュリアは手をパンと叩き、これ名案♪とばかりにミーシャの肩を掴んだ。

「ミーシャ、あなたひと暴れしたいわよね!?」

「え゛」

「そう、きっと暴れたくて暴れたくてしょうがない!! まかせなさい、あなたのその望みを叶える瞬間が今!!」

 そう言うとキュリアは、ズビシッとミーシャを指差した。

「あなたの力で悪い奴を懲らしめるのよ!!」

 ミーシャの力っていうのは勿論フォルスの事だ。
 ミーシャのフォルス、それは……

「名づけて“ミーシャと愉快なバイラス達♪“」

 どっかで聞いたことのあるようなネーミングだが、ミーシャの場合洒落にならない。
 この力のせいでミーシャは親に捨てられたのだから。

「キュリア先生、僕は……」

「全部言わなくても判っているわ、手始めにトミッチをとっちめてやりましょう」

 微妙な寒いギャグを取り入れながらキュリアは楽しそうに話を進めて行く。
 ミーシャの意見なんか聞いてすらいないようで、ミーシャにしてみれば堪ったもんじゃない。

「いや、だからキュリア先生。僕は……」

「ミーシャ」

 暴れたくないし、使いたくない。
 そう言おうとしたミーシャだったが、またもやキュリアに言葉を遮られてしまった。
 だがキュリアの声はさっきとは裏腹に低く、真剣で、でも優しさも感じられる声だった。

「ミーシャ、過去から逃げては駄目。そのフォルスのせいであなたは捨てられたかも知れないけど、
 その力を使って今度はあなたが誰かを救う番よ。そう、アニー達の様に」

 アニー、その名前を聞いたとたんミーシャはハッと何かに気が付いたようにキュリアを見た。
 ミーシャの目には何か決心したような、強い光が感じられる。

「そうよ、ミーシャ。ゲーム中では殆どどころかなんの役にも立たなかったフォルスだけど、
 あなたのフォルスを必要としているヒトがいるの。頑張りましょう」

「は、はい! キュリア先生」

 キュリアとミーシャは窓から見える海を見ながら、手と手を取り合った。
 何気にキュリア先生が酷い事言ってたりしますが、そんな事はこの2人が感じている感動に比べれば些細な問題。
 きっとこの2人は、助け合いながら生きていく事でしょう。




 でも考えてみたらこの“ミーシャと愉快なバイラス達”って言うのは、
 キュリアの暇すぎて腕が鈍ってしまう発言から始まったんですよね? キュリアさん、真相は??

「トミッチをとっちめる=怪我をする=私の病院に来る=お金が入る」

 って、結局お金のためデスカ!!!
 ミナールの凄腕女医さんは色んな意味で凄腕だった。



〜後書き〜
おこんばんはー 津名勘です。
今回のお話はまたRです、Rってどんどんネタが思い浮かんで思い浮かんで。
普通今ってLですよねぇ。
Lも面白かったですよ、勿論。
まぁ、ネタ話は置いておいて……

今回はキュリアさん家話を。
私絶対キュリア先生は黒いんだと思うんですよね〜
だって、ミーシャのフォルスがバイラスを操るとかなんとかだったじゃないですか!
絶対生活費に困ったらミーシャ使って稼いでますよ!!
この話は大分前に土台が出来てたんですが、どうも話の構成が上手くいかず
お蔵入りしてたんですがHP設立を機に掘り出し、新たに書いてみました。
結構悩んでたのが嘘みたいにすんなり書けてよかったです。
当初(大分前)は続き物の予定だったのですが、多分無理。
続かないかな〜と(爆)
読みたいって人が居るのかも謎なんですが(^^;)

今回も最後まで読んでくださりありがとうございましたw

UP時期:2005/10/15