御飯事



 御飯事。


 振り仮名は。


 おままごと。




* * * * * * * * * * * * *

「ヴェイグはお父さんだよネ!」

「……?」

 マオがいきなり変なことを呟き始めた。

「…………いや、この場合、ユージーンが親になるだろう」

「ユージーンはおじさんだヨ☆」

「Σおじっ!?」

 すぐ後を歩いていたユージーンが心に50のダメージを受けた。
 さすがにきっぱり言われるとショックなのだろう。

「で、クレアさんがお母さん」

「………………」

 文字だけでは分からないがクレアが母と聞いたとたんヴェイグは深く頷いた。
 どうやらクレアが母親なのは賛成らしい。

「で、アニーが僕のお姉さんだヨ!」

「私は町の医者でお願いします」

 アニーは笑顔ですぐさま言い返した。
 どうやら参加するのが嫌らしい。
 そう言われたマオだが、気にも留めずに話を続ける。

「ヒルダはお姉……じゃなくて妹だよネ」

「なんで私が妹なのよ」

 口調は相変わらずキツイが、顔は満更でもないわ。と言う感じが伺える。
 お姉さんより若い呼び名には嫌な気はしないのだろう。
 ヒルダの問いかけにマオは胸を張って答える。

「ティトレイがシスコンだからだヨ☆」

「Σ俺かよ!!」

 絶妙なタイミングでティトレイが間髪居れずに後ろからマオに突っ込んだ。

「ほら、ヒルダがお姉さんだとヒルダが危ないヨ!」

 人差し指だけを立て、その指を顔の横に持ってきて
 “ネッ☆”とヒルダに同意を求めるマオ。
 それを見たティトレイが、不満そうに吼える。
 不満というか、ご立腹?

「どう危ないんだ、えぇ〜?」

 シスコン話で前回酷い目にあったティトレイは、シスコンの話題に敏感だった
 (ティトレイが遣り残したこと参照)

「ぼ、僕の口からはとてもじゃないけど言えないヨ〜」

 マオは大袈裟に顔を手で覆う。
 どうやら“照れ”を表現したいらしい。
 行動が白々しくて、照れてるようには到底見えない。

「お前……俺が嫌いとかそういう事か?」

「まぁ、それはおいといて。最近ティトレイ、カルシウム足りてる?」

 また置いとくのかよ! と喚くティトレイを尻目にマオは毎度ながら続ける。
 否定しない辺りが怪しい……

「ティトレイ最近怒りすぎだヨ!」

「その原因を作ってるのはお前だ、マ〜オ〜」

「ティトレイ……責任転嫁はよくないと思うヨ」

 マオが“ティトレイって哀れ。”と言うのが、
 もの凄く分かるような顔でティトレイの肩に手を置く。
 ティトレイは怒り爆発5秒前。
 そんな2人の様子を後ろで見ていたアガーテの姿をしたクレアは、
 慣れてないこの状況にオロオロし始めた。
 そんなクレアを見たヴェイグが首を横に振る。
 “止めるな、危ない、ほっておけ”という意味だった。
 その意味に気が付いたのかクレアは更にオロオロし出す。
 ヴェイグの行動は逆効果だった。
 クレアは周りを見回した。
 いまだにショックを受けているおじさんこと、ユージーン・ガラルド 40歳。
 2人を微笑ましく見守りつつも、決して手を出さない町のお医者さんこと、アニー・バース 15歳。
 そして、無関心な妹こと、ヒルダ・ランブリング 21歳。

「…………」

 こう見回してクレアは1つの疑問点に突き当たった。

「じゃあ、ティトレイさんは何になるのかしら?」

「……………」

 クレアの1言で皆(おじさんを除いて)が固まった。
 マオもティトレイは考えてなかったらしい。
 えーっと……とマオが考え込む。
 その考え込んでる時間をチャンスと感じたティトレイが胸を張って言った。

「アニーが妹なら俺はお……」

「ティトレイは、微妙な使用人のコックだヨ!!」

 ティトレイの言葉を遮って、マオが親指を立てながら“微妙”を強調して、にこやかに発言する。
 ティトレイはお兄さんと言いたかったらしいが、あまりの扱いの酷さに口をあんぐりあけて止まってしまった。
 よほどショックだったのか……

「使用人……悪くはないわね」

「コックさんですか、自称料理人さんにはピッタリですね♪」

「さすが僕! 歌だけじゃなくネーミングセンスもバッチリだネ!」

 ヒルダとアニーはどうやら賛成のようだ。
 マオも満足したのか、満面の笑みだ。

「………………」

 ヴェイグも何故か頷いている。
 これでこの話が終わるならどうでもいい……感が滲み出ている。

「あの、ティトレイさん?」

 クレアだけがティトレイを心配する中、正気に戻ったティトレイが膝をついて呟いた。

「……俺の存在って一体」

「絶対ティトレイは微妙なコックだヨ☆」

 ビシッ! と親指を立てながら力説するマオ。思いっきり落ち込んでいるティトレイ。

 盛り上がってる人達を除いての暫くの沈黙。

「………そろそろ夕ご飯にしないか」

 いきなりヴェイグはお腹が減ったのかご飯にしようと言い出した。
 マジでいきなりだ。

「そうですね、今日もたくさん歩きましたし」

「そうだネ! 晩御飯にしようヨ♪」

 皆お腹が減ってたのか、ヴェイグの言葉に賛成し始めた。
 今回もティトレイを不憫に思ったヴェイグの助け舟って所だろうか。

「……ティトレイ」

「ティトレイさん、ご飯作りましょう?」

 クレアはにっこりと笑いながら滑らかな手を差し伸べ、ヴェイグは作ってくれと小さく呟いた。
 そんな2人を見たティトレイは途端に元気を取り戻した。
 すげぇ単純、と心で思う作者。

「しょうがない、この俺が腕を振るってやるか〜」

 ティトレイは膝についた汚れを払いながら料理をすべく立ち上がり、
 キャンプをする用意をしているアニー達の方に歩き出した。

「ヴェイグは優しいわね」

「…………」

 ヴェイグとクレアだけが残った場所で、クレアはヴェイグに笑いながら話しかけた。
 無意識か尻尾がゆっくり左右に揺れている。

「やっぱり夕方の浜辺で殴りあうと友情が深まるものなのかしら?」

「……あれは人生最大の汚点だ。」

 クレアが悪戯っぽく聞くとヴェイグは溜息交じりで答えた。
 何故皆そこにこだわるんだ……と目で訴えているヴェイグだが気が付く人なんて当たり前だが、誰もいない。
 それを聞いたクレアは無言で、くすくすと笑う。
 ヴェイグは相変わらずの顔だったが、どこを見てるのか遠い目をしながら静かに呟いた。

「……ピーチパイが、食べたいな」

 いきなりのその言葉に少し驚きつつもクレアは“そうね。”と笑顔で言い返した。





 その日の夕飯のデザートは勿論、ピーチパイだったとか。



〜おまけ〜

「やっぱりヴェイグはお父さんだネ!」

「…………?」

「子供の扱い方がバッチリだヨ♪」

 マオは楽しいのか嬉しいのか、満面の笑みでヴェイグに言った。
 ヴェイグは“ピーチパイが食べたかったからな。”と言う言葉をそっと胸にしまい込んだ。(爆)



〜後書き〜
はい、津名でございます。
またまたまたRです。
なんだかR中心になって来てますが、Rは書きやすくて楽しいから(多分)問題なし!
書いてるとRがしたくなります、危険です。
時間があれば2週目したいですねw 時間なんて今のところ無いですが(爆)

今回もティトレイが酷い扱いですが、私の中の彼はあんな感じらしいです(笑)
そしてアニーはあんな感じです(爆)
今回はALLキャラで、その割りにユージーンの台詞1つですが(笑)
ティトレイは子供じゃないだろうという突っ込みは無しで(爆)

あとこれ、ちょっとだけ、某掲示板に投稿した奴とは少し描写を付け足したりしてるんですが。
あっちでは「ティト遣り」投稿してないから少しあちらではわかんないかもなぁ〜と思いつつ……
まぁ、大体は同じだからいいか(爆)

今回も読んでくださってありがとうございました♪

UP時期:2005/11/2